ICMは、チップ量から賞金の期待値を推定するモデル

ICM(Independent Chip Model)は、残っている全員のスタックと賞金配分から、各プレイヤーの賞金の期待値を推定するモデルです。スタックは手元に残るチップ量、期待値は同じ条件を繰り返したときの平均的な価値を指します。

残り3人が各10000点、賞金50・30・0の入力から、1人あたり約26.67の賞金価値をICMで推定する図

大会のチップは、その場で同じ比率の賞金へ交換できません。全チップを集めた優勝者も、賞金総額ではなく1位の賞金を受け取ります。2位以下にも賞金があるためです。
したがって「チップが2倍になれば、賞金価値も2倍」とは限りません。

ICMは、まず各順位で終わる確率をスタックから推定し、その確率に順位ごとの賞金を掛けて足します。ここでいう賞金価値はモデル上の推定額で、実際に受け取る賞金の確定額でも、参加費を引いた純利益でもありません。GTO WizardのICM解説も、チップ量と賞金配分を分けて評価しています。

残り3人の例で、賞金価値を計算する

通常の順位別賞金がある大会を想定します。説明用に、残り3人のチップを各10,000点、賞金を1位50・2位30・3位0という単位にそろえます。賞金総額は80で、バウンティや税金などは含めません。

全員同じチップ量では各順位の確率を3分の1と置き、賞金50・30・0を掛けて約26.67になる計算図

順位の確率と、チップの割合を分ける

基本的なICMでは、1位になる確率を自分のチップ÷全員のチップ合計と置きます。この例では全員が10,000÷30,000=1/3です。

2位の確率は、別の人が1位になった場合を分けて考えます。Aの2位を求めるなら、Bが1位になる確率1/3に、Bを除いたAとCの中でAが次になる確率1/2を掛けます。Cが1位の場合も同じなので、Aの2位は1/3×1/2+1/3×1/2=1/3です。残る3位も1/3になります。

この順位確率を賞金へ掛けると、Aの価値は50×1/3+30×1/3+0×1/3=約26.67です。BとCも同額になります。

プレイヤーチップ量チップの割合ICMの賞金価値
A10,000点1/3約26.67
B10,000点1/3約26.67
C10,000点1/3約26.67

丸める前の値を合計すると、賞金総額の80と一致します。計算時は途中で丸めず、表示だけ小数第2位に丸めています。

人数やスタックが異なる場合も、各順位の確率を求めて賞金を掛けるという考え方は同じです。ただし人数が増えると計算が複雑になるため、対戦後の学習では計算ツールを使い、入力したスタックと配分を確認する方が実用的です。

チップが増えるコールでも、賞金価値は減ることがある

チップの期待値がプラスでも、ICMで見た賞金の期待値までプラスとは限りません。次の例では、勝って増える価値より、負けて失う価値が大きくなります。

先ほどと同じ残り3人・各10,000点・賞金50/30/0を使います。ノーリミット・テキサスホールデムで、ブラインドは100/200、アンティなし。ボタンのCが降り、SBのBが全10,000点をオールインしました。BBのAはすでに200点を出しており、コールには残り9,800点が必要です。

説明用局面で降りる価値26.28に対し、コールで勝つと43.33、負けると0。増える17.05より失う26.28の方が大きいと示す図

説明のため、Aがコールした場合に勝つ確率を55%、負ける確率を45%、引き分けを0%と仮定します。これは特定の手札や相手レンジに対する実測・推奨ではありません。コール後に追加判断はなく、この勝敗の後のスタックを基本ICMで評価します。

降りる・勝つ・負けるを、同じ基準で比較する

Aの選択と結果A/B/Cの残りチップAのICM賞金価値
Aが降りる9,800/10,200/10,000約26.28
Aがコールして勝つ20,000/0/10,000約43.33
Aがコールして負ける0/20,000/10,0000

降りた場合の約26.28は、スタック9,800/10,200/10,000を同じICM計算へ入れた値です。Aが勝った場合は2位以上が確定し、1位になる確率を20,000÷30,000=2/3と置くので、50×2/3+30×1/3=約43.33になります。

チップ量だけで比べると、コール後の期待スタックは55%×20,000+45%×0=11,000点です。降りた場合の9,800点より1,200点多い計算です。既払いの200点は、降りる場合にも戻りません。

一方、コール後の賞金価値の期待値は55%×43.333…+45%×0=約23.83です。降りた場合の約26.28より約2.45低くなります。
この仮定では、チップ量を増やす観点ではコールが有利でも、ICMの賞金価値を守る観点ではフォールドが有利です。

ここでの違いは、負けると3位の0になり、勝っても賞金価値が2倍には増えないことから生まれます。オールインが常に悪いという意味ではありません。相手のレンジや勝率、賞金、残りスタックが変われば比較結果も変わります。

バブルや賞金差を、必要な勝率に反映する

バブルは、あと一人など少数が脱落すると残った人が入賞する局面です。先ほどの例も3人中2人に賞金があるバブルで、脱落によって賞金価値を大きく失います。

この影響を表す言葉の一つがリスクプレミアムです。オールインへのコールについて、チップの収支だけで必要な勝率と、ICMの賞金価値を基準に必要な勝率との差を指します。

先ほどのAのコールを比べる基準収支が等しくなる勝率
チップ量9,800÷20,000=49%
ICMの賞金価値26.2818…÷43.3333…=約60.65%
追加で必要な勝率の差約11.65ポイント

「約11.65ポイント」は、49%に対して11.65%を掛ける意味ではありません。49%から約60.65%への差です。引き分けがない、この例の条件だけでの計算です。

賞金が大きく上がるファイナルテーブルでも、同様に脱落する損失とチップを増やす利益を比較します。ただし、全員が一律に参加を控えればよいわけではありません。自分を脱落させられる相手か、自分が相手をカバーしているか、ほかに短いスタックがいるかなどで、同じチップ移動の評価が異なります。

極端な例として、1位だけに80を払う配分なら、基本ICMの価値は「80×チップの割合」となり、チップ量に比例します。2位にも30を払う今回の例とは、同じ脱落リスクの評価になりません。大会の判断は、段階名だけでなく賞金配分と全員のスタックをセットで確認します。段階ごとの整理はトーナメント戦略で扱います。

ICMの前提を確認し、対戦後の復習に使う

基本的なICMは、チップ量から順位確率を推定するためのモデルです。現実の対戦で有利な要素を、すべて取り込んだ予測ではありません。ICMIZERの解説も、技量差や今後のゲーム展開を含めない点を限界として挙げています。

基本ICMの計算に入れるものそれだけでは表せないもの
残っている全員のスタック各人の技量差や相手への対応力
残り順位と賞金配分次のブラインド負担や今後の上昇、将来の行動機会
各結果でのスタックの変化バウンティなど、通常の順位賞金以外の価値

局面の分析では、ICMの値とは別に相手のハンド候補や各結果の確率を仮定します。その仮定が違えば、行動の期待値も変わります。「ICMで計算した」と書かれているだけで、入力やレンジまで正しいとは限りません。

復習では、まず全員のスタック・賞金配分・ブラインドとアンティをそろえます。次に降りる場合と、勝つ・負ける場合のスタックを作り、同じモデルで比較します。今回の例なら、全スタック合計30,000点と、全員のICM価値の合計80が保たれることを検算できます。

数値は将来の順位や賞金を保証しません。対戦中の外部ツール利用は参加先の規約に従い、学習では条件を変えて、どの入力が結論を変えたのかを確かめましょう。